バナナケーキ


静かな心。想いの再燃。初対面。


彼とは友達としての関係でいい。
最初は半ば、強引にそう思い込んでいた。
それが段々と普通の状態になり、すっかり友人としての付き合いになっていた。
世の中はあと半月ほどでバレンタインデーという時期。

その頃、行き付けにしていた喫茶店に少し気になるお兄さんがいた。
特別に格好いいとか言うのではない。
ただ、お兄さんが紅茶をいれるのを眺めているのが好きだった。
言葉を交わした事は無い。
華奢な手がいれた紅茶を飲む。
ほんわかした幸せ。
(そうだ!)
バレンタインデーは、お兄さんにケーキ焼いて渡そう。
簡単に出来て割と評判のいい、バナナケーキ。
喫茶店なんだしケーキなんか食べ飽きてるだろうけど、いいんだ。

新しい恋を見つけた、と嬉しかった。
けれども、想いは再燃する。

ある夜、チャットで彼のバイト先を知った。
秋葉原のPCショップの店員。
「今度、来いよ。な」と言う彼。
「そだね、うちからも近いし、行くよ」そう答えたとき。
(彼にもバナナケーキあげようっと)
その時は、「どうせたくさん焼くんだから余ったの持っていこう」位の気持ちしかなかった。

バレンタイン前日。
何だかうきうきしながら、ケーキを焼き終える。
その夜、ICQで彼に聞いてみた。
「実はね、こういう理由で、バナナケーキ焼きすぎちゃって。一つ、いる?」
「甘いもんは好きだから、くれるなら貰うけど。いいのか?その『お兄さん』にあげるんだろ?」
「いいの、お兄さんの分は取ってあるから。じゃ、明日バイト先に持っててもいい?」
「おっけー、楽しみに待ってる^^」
…何だか、久しぶりにどきどきした。

そして、バレンタインデー当日。

朝、早起きをした。
バナナケーキを焼くために。
(やっぱり当日焼いた方が、ふっくらしてていいよねえ)
お兄さんと彼の分、2本。
この時にはもう、「彼に」ケーキをあげる事が出来る喜びのほうが、大きかった。

彼に焼きたてのケーキをあげたい。
彼の喜ぶ顔が見たい。
彼に早く会ってみたい。

(まだ彼のこと、好きなのかもね)
普段しないメイクを1時間かけてやった。
お兄さんの為ではなく、彼の為に。

お兄さんにさっさとケーキを手渡す。
そのまま、一直線に彼のバイト先へ。
「改札でたら、こっちか」
彼に教わった通り、バイト先へ向かう。
どんな人だろう、と道々考えつづけた。
40過ぎのおじさんとかだったら、どうしよう。
いい人だといいなあ。
不安になって、何度も引き返そうと思った。

ついに、対面の瞬間が訪れる。


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